TRONイネーブルウェアシンポジウム36th
生成AIが切り拓く新たな障碍者支援の可能性
2023年12月2日(土)13:30~16:30(開場13:00)リアルとオンライン同時開催
INIADホール(東洋大学 赤羽台キャンパス)
- 主 催
トロンフォーラム/TRONイネーブルウェア研究会 - 共 催
INIAD cHUB (東洋大学情報連携学 学術実業連携機構)/東京大学大学院情報学環 ユビキタス情報社会基盤研究センター - 特別協賛
インフィニオン テクノロジーズ ジャパン株式会社/グーグル合同会社/住友電設株式会社/大和ハウス工業株式会社/東京ミッドタウン/東芝デバイスソリューション株式会社/日本電気株式会社/日本電信電話株式会社/パーソナルメディア株式会社/株式会社パスコ/明光電子株式会社/ユーシーテクノロジ株式会社/株式会社横須賀リサーチパーク - 協 力
矢崎総業株式会社
13:00 | 受付開始 |
13:30~14:00 | 基調講演「生成AIが切り拓く新たな障碍者支援の可能性」 坂村 健:INIAD(東洋大学情報連携学部)学部長、TRONイネーブルウェア研究会会長 |
14:00~14:20 | 講演「さまざまな困難を克服する支援技術とAIの可能性」 千葉 慎二:日本マイクロソフト株式会社 技術統括室 エンジニア |
14:20~14:40 | 講演「生成AIによる視覚障害者支援の現状と今後への期待 ~活用事例とその応用を通して~」 松尾 政輝:筑波技術大学 保健科学部 情報システム学科 助教 |
14:40~15:00 | 休憩 |
15:00~16:30 | パネルセッション 千葉 慎二、松尾 政輝、高村 明良(全国高等学校長協会入試点訳事業部 理事)、坂村 健(コーディネータ) |
16:30 | 閉会 |
今年のTEPSでは、AI(人工知能)技術を活用した障碍者支援の進歩と可能性を探ります。
AIの進化により、音声認識システムや視覚支援アプリケーション、そしてロボット技術などが大きな発展を遂げています。そしてその応用により、障碍者の日常生活や職場でのサポートを強化する技術が実用化され、障碍者に新たな活動の機会が提供されています。
本シンポジウムでは、それらの技術の事例を紹介します。特に、AIによるリアルタイム翻訳システムや視覚障碍者向けの環境認識アシスト技術に焦点を当て、これらの技術がどのように障碍者の自立を促進し、社会参加を支援するかについて議論していきます。
パネルセッションでは、AI技術が就労支援を含むさまざまな障碍者支援において果たす役割や可能性について、その将来を展望します。
講演概要
生成AIが切り拓く新たな障碍者支援の可能性
坂村 健
INIAD(東洋大学情報連携学部)学部長
TRONイネーブルウェア研究会会長
昨年のTEPSのテーマは「ロボット技術×次世代光ネットワークで障碍者を支援する」だった。ロボット技術と次世代光ネットワークをかけ合わせることにより遠隔就労が可能になるということで、一方的な「支援」だけでなく「社会に参加してもらう」ための技術の発達を考えた。実際、少子高齢化はますます進み社会の支え手が減り、高齢者や障碍者には支えられるだけでなく支える側にも回ってもらうことが喫緊の課題となっている。
しかし、人間の支える手が必要な支援には限界があり、一人が一人を支援して一人分の仕事をするのでは、社会貢献としての収支はプラスにならない。従来はそこに限界があり、支援の自動化が重要となるが、去年末に登場した生成AIを含むAI技術の進歩は、人間の介在を必須としたような分野でも自動化を可能にしつつある。
例えば、スマートフォンを使い遠隔でカメラ映像を元に視覚障碍者に周辺状況を的確に伝えるボランティア活動。その場にいなくても、一人で多くの人を助けられるという意味ではICTの進歩による素晴らしい成果だが、どうしても人による認識を必要とした。それが、AIの進歩によりシーンアナリシス(情景解析)した結果を的確な表現でテキスト化して伝えられるようになったことで、スマートフォンから24時間気兼ねなく使えるサービスを実現できるようになる。その挑戦自身は以前からあったが、その要約が人間ボランティアと遜色ないものになったのは、まさに最近のマルチモーダルな生成AIによって可能になった進歩だ。
もちろんより的確なアドバイスができるようにするには、センサーによるリアルタイムデータから、周辺のマップデータや公共交通状況、天気の予報などのオープンデータまで多くのデータが必要になる。また、それらをクラウドの高度なAIにより処理し、瞬時に返すことが求められるため、次世代光ネットワークへの期待はより大きいものとなる。逆にそのような環境が実現できれば、視覚や聴覚に障碍があっても、常に最適化された活動が可能になる。車いすも自動運転化しロボットによる最適化した介助も可能になる。
新しい技術により今まで社会に出にくかった人の社会参加が容易になることは、少子高齢化に苦しむ日本にとって大きな可能性である。本シンポジウムでは、そのような将来への期待と、そのために解決すべき課題と可能性について語りたいと考えている。
さまざまな困難を克服する支援技術とAIの可能性
千葉 慎二
日本マイクロソフト株式会社 技術統括室 エンジニア
ここ最近ChatGPTをはじめとした生成AIが注目されています。マイクロソフトは10年以上前からAI分野に力を入れており、誰しもがAIを用いることでより快適に暮らせる「AIの民主化」を推し進めています。
マイクロソフトが提供するクラウドサービスのMicrosoft AzureにはCognitive Servicesという「ビジョン」「音声」そして「言語」などに関する認知AIサービスがあり、機能や性能・精度が日々進化しています。これらのサービスは健常者のみならず、障がいとともに暮らす人々に多くの恩恵をもたらします。
生成AIには賛否ありそれ単体でみると限界もありますが、認知AIや私たち個人が所有する様々なデータそしてその他のサービスと連携させることで、それぞれが持つ価値や特性をより高めることができます。
本講演では、聴覚に障がいがある方々ためのライブキャプション機能や、視覚に障がいがある方々のために開発されたSeeing AIについて触れ、Windowsの操作やOffice製品による資料作りがより簡単かつ便利になるよう支援してくれるCopilotを紹介します。また、生成AIを用いることによって実現されるインクルーシブな取り組みの具体的な例と、困難を克服するために今後期待できるソリューションの可能性についてお話しします。
生成AIによる視覚障害者支援の現状と今後への期待
~活用事例とその応用を通して~
松尾 政輝
筑波技術大学 保健科学部 情報システム学科 助教
本発表は視覚障害者支援における情報通信技術(ICT)の生成AIの役割を探るものである。日本における視覚障害者は312,000人以上といわれており、ICTを用いた歩行支援や空間認知、活字情報の提示などの面において様々なサービスの提供や研究が行われている。
特に近年では、これら視覚障害者向けサービスの提供に生成AIが用いられることがある。OpenAIのChatGPTは視覚情報に頼らずに利用でき、プログラムコードの作成、英文の添削、誤字・脱字の調整などを可能にしている。また、画像生成AIはテキストベースの対話により図表やイラストの作成、それらをテキストで説明することが可能であり、視覚障害者に新たな情報アクセス手段を提供している。
さらに、Be My Eyesのようなボランティアによる視覚補助サービスや、GPT-4を利用したバーチャルボランティア「Be My AI」など、多様な支援手段が登場している。これらは視覚障害者が撮影した写真をAIが解析し、風景や活字情報などを解析する。
本講演では、このような生成AIの活用事例に加え、歩行支援、施設情報の提供、活字情報の読み上げ、物探し等さらなる生成AIの応用先についての今後の発展への期待を語る。
生成AIによる視覚障害者支援技術は、視覚障害者の生活を支援するだけでなく、全ての人々の生活を豊かにする可能性を秘めている。