TRONイネーブルウェアシンポジウム35th

ロボット技術× 次世代光ネットワークで障碍者を支援する

2022 年11 月26 日(土)13:30 ~ 16:30(開場13:00)リアルとオンライン同時開催
INIADホール(東洋大学 赤羽台キャンパス)

  • 主 催
    トロンフォーラム/TRONイネーブルウェア研究会
  • 共 催
    INIAD cHUB(東洋大学情報連携学 学術実業連携機構)/東京大学大学院情報学環 ユビキタス情報社会基盤研究センター
  • 特別協賛
    インテル株式会社/インフィニオン テクノロジーズ ジャパン株式会社/グーグル合同会社/大和ハウス工業株式会社/東京ミッドタウン/東芝デバイスソリューション株式会社/日本電気株式会社/日本電信電話株式会社/日本マイクロソフト株式会社/パーソナルメディア株式会社/株式会社パスコ/明光電子株式会社/ユーシーテクノロジ株式会社/株式会社横須賀テレコムリサーチパーク
  • 協 力
    矢崎総業株式会社
13:00受付開始
13:30~14:00基調講演
坂村 健
INIAD(東洋大学情報連携学部)学部長、TRON イネーブルウェア研究会会長
14:00~14:15講演「歩行空間における自律移動支援の普及・高度化に向けたDX の推進」
松田 和香
国土交通省 総合政策局総務課 政策企画官(併)政策統括官付
14:15~14:30講演「IOWN(アイオン)とサイバネティックス技術で挑むQoL の向上」
青野 裕司
NTT 人間情報研究所 サイバネティックス研究プロジェクト プロジェクト・マネージャ 主席研究員
14:30~14:45講演「企業における障がい者活躍推進と遠隔操作型分身ロボットの活用」
池田 円
日本電信電話株式会社(NTT)総務部門 ダイバーシティ推進室 室長
14:45~15:00休憩
15:00~16:30パネルセッション 
松田 和香、青野 裕司、池田 円、坂村 健
16:30閉会

近年のロボット技術とネットワーク技術の発展は、障碍者に就労をはじめとした新たな活動の機会を与えようとしています。

今年のTEPS では、その実例として国土交通省が取り組む自動走行ロボットの実証実験を紹介します。歩行者移動支援データプラットフォームによりロボット走行に適した経路が探索され、この経路を使い、たとえば注文された商品を近所の店から自宅まで自動走行するロボットが届ける実験を行っています。

この実験では、公道を走行させるためにロボット走行を、ネットワーク経由で遠隔監視しています。さらに、大容量と低遅延を特長とする次世代オール光ネットワーク技術のIOWN(アイオン)が実現すれば、より多くの分野でロボットの遠隔操作による「テレワーク」が可能になるでしょう。

今年のTEPS では、講演とパネルセッションを通して、最新のロボット技術と次世代光ネットワークのかけ合わせにより生まれる新しい障碍者支援について議論していきます。

講演概要

ロボット技術× 次世代光ネットワークで障碍者を支援する

坂村 健
INIAD(東洋大学情報連携学部)学部長
TRON イネーブルウェア研究会会長

障碍者支援には、一方的な「支援」だけでなく「働いてもらう」ために支援するという側面もある。最近のはやりで言うなら「サステナブル」。支援を上回るリターンがあるなら、一方的な持ち出しでない持続可能な「投資」と考えることも可能になる。文明社会として障碍者支援の充実は大前提だが、リターンがあれば、それだけ多くの人をより良く支援することが可能になる。

その意味で、最新の情報通信技術が可能とするロボットとネットワークは大きな可能性を持っている。

歩行移動支援として国土交通省が取り組んできたバリアフリーマップ整備のプロジェクトも、配送などの応用で自動走行ロボットが公道を行き交う時代には、ロボット移動支援のデータプラットフォームとして活用できる。

しかし同時に、この実証実験で想定しているような多くのロボットが公共空間を人と混じって行き来する時代には、子供のイタズラから不慮の事故まで、多くのトラブルが起こることが想定される。そのトラブルすべてを事前に想定することは難しく、多くのソリューションでは通信ネットワークを介して指令センターに繋がれ、トラブル時は人間の管制官が遠隔で対処に当たることになっている。

大容量で低遅延の通信ネットワークが広く普及していれば、指令センターも集中している必要もなく、すべての管制官はテレワークで自宅から担当のロボットを監視し、必要に応じてトラブル対処に介入するというワークスタイルが可能になる。これは足の不自由な障碍者でもできる──というより、車いすでの公道の様々なトラブルの経験値がむしろプラスに働く職場となるだろう。

同様に、大容量と低遅延を特長とする次世代オール光ネットワーク技術のIOWN が実現すれば、工場や土木工事や建築現場などより多くの分野でロボットの遠隔操作による「テレワーク」が可能になるだろう。さらにロボットによる物理的労働だけでなく、肉体的に外出が難しくても対人スキルなら高いという人は、ロボット×ネットワークの時代になればテレプレゼンスを利用して、接客など多くの職場で求められる人材に変わる。

少子高齢化が進む日本では、新しい技術により今まで働けなかった人が労働力になるというのは、人材確保のための重要な可能性である。本シンポジウムでは、そのような将来への期待と、そのために解決すべき課題と可能性について、ロボットとネットワークの両面から議論したいと考えている。

歩行空間における自律移動支援の普及・高度化に向けたDX の推進

松田 和香
国土交通省 総合政策局総務課 政策企画官(併)政策統括官付

国土交通省では、高齢者や障害者など含め、誰もがストレスなく自由に活動できるユニバーサル社会の構築に向け、バリアフリー情報を始めとする様々なデータのオープンデータ化を促進し、民間事業者等がそれらのデータを自由に利活用し、多様なサービスを提供できる環境づくりを、『バリアフリー・ナビプロジェクト』として推進しています。

具体的には、歩行空間における段差や傾斜等のバリア情報を含む「歩行空間ネットワークデータ」、バリアフリートイレ等を有する施設情報の「施設データ」、そして「地図データ」を活用し、例えば、車椅子利用者がある出発地から目的地まで移動する際に、車椅子が通行できないような段差のある箇所を避けた経路をスマートフォンアプリ等により検索・決定し、案内に従ってスムーズに移動できるようなサービスが想定されます。

一方で近年、物流業界におけるドライバー不足や、コロナ渦における非対面・非接触での配送ニーズの急増等の背景を受け、国内外においてロボット自動配送の実用化に向けた検討・社会実装が進展してきました。注目すべきは、自動走行ロボットが走行する際にもバリアフリー等の情報は必要不可欠であるため、『バリアフリー・ナビプロジェクト』と自動走行ロボットの分野は非常に親和性が高いという点です。そこで国土交通省では、「歩行空間ネットワークデータ」による経路探索とこれに基づく自動走行ロボットの実際の運行等を検証する実証実験を実施することとしました。

今後、ビジネスとしての拡大が期待される自動走行ロボットの分野の発展とともに、『バリアフリー・ナビプロジェクト』における各種データの充実や、多様なサービスの提供が促進されるよう、歩行空間における人やモノの自律移動支援の普及・高度化に向けた施策を推進していきます。

IOWN(アイオン)とサイバネティックス技術で挑むQoLの向上

青野 裕司
NTT 人間情報研究所 サイバネティックス研究プロジェクト
プロジェクト・マネージャ 主席研究員

NTT では、たくさんの企業と連携して、IOWN(Innovative Optical and Wireless Network) 構想の実現に向けた研究開発を推進しています。IOWN 構想とは、光を中心とした革新的技術を活用し、これまでのインフラの限界を超えた高速大容量通信ならびに膨大な計算リソース等を提供可能な、端末を含むネットワーク・情報処理基盤の構想です。2024 年の仕様確定、2030 年の実現をめざしています。

この高速大容量かつ低遅延なIOWN 環境において、高機能な機構/UI(ユーザインタフェース)を備えたデバイスであれば、手術のような精密な作業でも、100km を超える遠隔地間で実現できる可能性が見えてきました。

一方、遠隔ロボット操作を、より幅広い利用者層に拡大する際には、低廉なデバイス、UI が不可欠となり、たとえネットワークの遅延が限りなく小さくなったとしても、リアルな作業時に感じていた感覚(五感、体性感覚など)とのずれが発生し、操作性を悪くしてしまいます。

そこで、NTT 研究所では、「ネットワークの遅延による悪影響を緩和する技術」と、「デバイスやUI の性能限界による悪影響を緩和する技術」の両面から、遠隔ロボットの操作性向上に向けた研究開発を進めています。

今回は、これらの最新の研究成果を中心に、我々が推進する様々なロボティックス・サイバネティックス研究の成果をご紹介します。

企業における障がい者活躍推進と遠隔操作型分身ロボットの活用

池田 円
日本電信電話株式会社(NTT)総務部門 ダイバーシティ推進室 室長

NTT における障がい者活躍推進には幾つかの目的がある。障がいの有無に関わらず活躍できる場を提供することで、よりサスティナブルな社会実現に貢献することはもちろんだが、それだけはなく、企業として、障がい者の個性や能力をビジネスに活かす、という視点も重視している。

遠隔操作型分身ロボットとそのパイロットの方に出会ったのは、2019 年10 月のこと。外出困難なパイロットの方が、遠隔操作型分身ロボットOriHime を操作して、カフェで働いていた。このICT を活用した新たな就労機会の創出に感動し、企業(オフィス)でも活躍いただける場はないかと考え、実現したのが、遠隔操作型分身ロボットOriHime-D を活用したNTT 本社での受付業務であった。

新型コロナの感染拡大の時期とも重なったこともあり、パイロットの方との採用面談もリモート(オンライン)で実施し、その後の就労においても一度も対面でお会いすることなく、完全リモートで業務を遂行いただいている。本事例は、完全リモート社員の採用の第一号となり、障がいの有無に関わらず、完全リモート社員の雇用・活躍が可能であることを証明することとなった。

その後も、NTT グループでは、障がい者活躍推進とリモートワールドの実現の観点から、様々な遠隔操作型分身ロボットの活用や、遠隔操作を円滑にするための通信技術の研究などに継続的に取り組んでいる。

誰もが、外出困難になる、障がいを抱える可能性がある。障がい者と一言で言っても抱える障がいも能力もスキルも人それぞれ異なる。誰もが働きやすい社会を実現するために、一人ひとりが活躍できる仕事を企業は考え、創り出していく必要があり、企業には、より多様な障がい者活躍推進の取り組みが求められていると感じている。