TRONイネーブルウェアシンポジウム31st

IoT / ICT技術で支える高齢者社会

2018 年12 月1 日(土)13:30~16:30(13:00 受付開始)
INIADホール(東洋大学 赤羽台キャンパス)

  • 主 催
    トロンフォーラム/TRONイネーブルウェア研究会
  • 共 催
    INIAD cHUB(東洋大学情報連携学 学術実業連携機構)/東京大学大学院情報学環 ユビキタス情報社会基盤研究センター
  • 特別協賛
    イーソル株式会社/グーグル・クラウド・ジャパン合同会社/サトーホールディングス株式会社/株式会社ダイワロジテック/東京ミッドタウン/東芝マイクロエレクトロニクス株式会社/日本電気株式会社/パーソナルメディア株式会社/株式会社パスコ/富士通株式会社/株式会社 的/明光電子株式会社/矢崎総業株式会社/ユーシーテクノロジ株式会社/株式会社横須賀テレコムリサーチパーク

平成30年度 東洋大学オリンピック・パラリンピック特別プロジェクト研究助成事業

第1部 「IoT/ICT 技術で支える高齢者社会」

13:30〜14:00基調講演
坂村 健(INIAD(東洋大学情報連携学部)学部長/ TRON イネーブルウェア研究会会長)
14:00〜14:40特別講演「過疎・高齢化・医療リソース不足環境下の地域医療に果たすICT の役割を考える」
橋本 重厚(福島県立医科大学会津医療センター 教授)
14:40~15:00休憩
15:50〜15:30パネルセッション 
坂村 健、橋本 重厚

第2部 「INIAD バリアフリーマップ」

15:30~16:10坂村 健
別所 正博(INIAD(東洋大学情報連携学部)准教授)
16:10~16:30パネルセッション 
坂村 健、別所 正博
16:30閉会

日本では、特に地方での高齢者の増加や医療過疎がますます大きな課題となっています。そして近年の高度化されたIoT/ICT 技術を使い、遠隔医療、地域医療連携、救急医療の効率化、個人健康記録(PHR)の活用など、さまざまな取り組みが行われています。

今年のTEPS では、福島県で長年にわたり地域医療に携わってこられた橋本重厚福島県立医科大学会津医療センター教授にご講演いただきます。また、INIAD(東洋大学情報連携学部)で進めている「オープンモビリティプラットフォーム」の一貫として進められている「INIAD バリアフリーマップ」の最新状況を報告します。

これらの発表・事例を通して、超高齢者社会におけるIoT/ICT 技術の役割、活かし方に関する議論を深めていきます。

登壇者

IoT/ICT 技術で支える高齢者社会

坂村 健
INIAD(東洋大学情報連携学部)学部長
TRON イネーブルウェア研究会会長

日本の逆釣鐘型人口構成による歪みは深刻な問題となっており、特に高齢者ケアをする若手の不足については、国内だけでは有効な解決策は見いだせていない状況だ。

それでも過去に比べ優位な点は、ICT が飛躍的に進歩しているということだろう。そのインフラを持つ日本にとって、ICT の活用はまず第一に考えるべきポイントだ。介護ロボットのような直接応用もあるが、完全自動化でなくICT によるサポートにより̶̶言い方が難しいが「介護効率」を上げるという方向性もある。見守りとか診察、服薬や生活指導の遠隔化、PHR(個人健康記録)の標準化による共有、さらには介護関係の事務作業にも介護の方々は労力が必要になっており、それらを電子化するだけで大きな効果が見込める。

また、PHR や日々の生活状況などのビッグデータを使って、AI などを活用し未病を早めに察知して重症化させない対応ができれば、それだけ健康保険への負荷を減らし、重症者に対応できる労力も確保可能になる。ただしそのためには、プライバシー的に最もナイーブな個人の健康データを、公共のためにどこまで利用できるかといった、プライバシーとパブリックのバランスという制度面での明確化が必要だ。それがなければ、個人情報保護法に対して敏感になっている現在の日本の社会では、いくら進んだICT も怖くて活用できないからだ。また、高齢者自身にICT を使ってもらうことが全体最適として正しいとして、能力面よりむしろ「いまさら新しいことを覚えたくない」とか「機械は冷たい」といった感情面からの反発に対して、どこまでそれを制度化できるか。また制度化する以上、使えるようにサポートするのは行政側の義務となり、やはり制度的な対応が必要となる。

本シンポジウムの第一部では、それら技術と制度という観点から高齢者向けの「イネーブル」を考える。そのとき、能力か感情か、また都会か地方かでも問題点のディテールが違ってくるため、それに留意した議論を行いたい。

また第二部では、INIAD で全学生で実施している赤羽周辺バリアフリーマップ作成実習を紹介し、2020 年に向けたその活用やオープンデータ化、さらには学外・赤羽外も含めた運動への展開など̶̶具体的な技術の社会実装という観点で議論したい。

過疎・高齢化・医療リソース不足環境下の地域医療に果たすICT の役割を考える

橋本 重厚
福島県立医科大学会津医療センター
糖尿病・内分泌代謝・腎臓内科学講座 教授

我々の医療圏である会津地方は、高齢化率(65 歳以上の人口比率)が金山町の57.51%を筆頭に半分以上の町村が40%を超え、全国高齢化率ランキング上位20 に3 町村が入り、いわば高齢化先進地域である。医療需要は最近5 年間で4%、介護需要は13%増加した。一方、会津地区の医師数は、人口10 万人当たり168.3 人と、全国平均249.35人と比べ極めて少なく、専門医数はさらに少ない。

また福島県は、北海道、岩手県に次いで広く、会津地方だけでも5420.69 ㎞ 2 と東京都の8.65 倍あるが、人口は毎年約1.2%減少し現在約24 万人、人口密度は49.16人/ ㎞ 2 と東京都に比べ約1/300 である。交通網も道路だけ、あるいは単線のJR のみであることが多く、医療機関を受診するにも遠距離で時間もかかる。積雪時にはさらに困難となる。

このような空間的、時間的、医療リソース上の制約を解決するにはICTの活用が必須である。遠隔地診療の方法として、患者‐医師間では、ウエアラブルセンサーによる心拍数、活動量、睡眠などの生体情報や、血圧や血糖測定結果をインターネットを介して情報送信し医療機関から自己管理フィードバック受けることや、タブレット端末を用いた外来診療が可能になっている。また、医師‐医師間ではインターネットを介した大容量通信により非専門医から専門医への病理・画像診断依頼が、技術的には可能な時代に入っている。クラウドコンピューターを用いる電子カルテを導入すれば、医療から介護までシームレスな対応が可能となる。

しかし、種々のデバイスを使いこなせる高齢者は稀で、サポートが必須であるばかりでなく、通信にかかるコストの問題も発生する。また法律で200 床以上の医療機関では通信による遠隔診療が認められないなど種々の社会的な障壁が存在する。地域医療の現状と問題点を明らかにし、高齢化・過疎化への対応策としてのICT の役割展望を述べたい。

INIAD バリアフリーマップ

別所 正博
INIAD(東洋大学情報連携学部)准教授

INIAD(東洋大学情報連携学部)では、オープン方式でバリアフリーマップを作成するプロジェクトに、学部開設の初年度(2017 年度)から取り組んでいる。

TRON プロジェクトでは、誰もが参画できるユニバーサル・デザインの社会の実現を目指し、ICT を活用した歩行者移動支援に取り組んできた。ここでは、高齢者の方、車椅子利用者の方、その他様々な障碍をもつ方の移動を支援するために、段差や幅員の有無をはじめとした、歩行空間のバリア情報の収集が必要であることが分かっている。さらに、刻々と変化する街のバリア情報を扱うには、国や自治体が一斉に整備するだけではなく、ボランティアのユーザが参加しながら、データを修正していける仕組みも必要になる。

このような問題意識から、INIAD では、多数の利用者が協力しながらバリアフリーマップを作成するためのプラットフォームの開発を進めている。今年度、このプラットフォームを活用して開発したツールを利用し、多数の学生が協力しながらバリアフリーマップを作成する実習を実施した。今年のTEPS では、開発を進めているオープン・バリアフリーマップを紹介し、このプロジェクトの今後の展望を述べたい。