TRONイネーブルウェアシンポジウム27th

オープンデータでバリアフリーを支援する

2014 年12 月13 日(土) 13:30 ~ 16:30(13:00 受付開始)
東京ミッドタウン カンファレンス(Midtown Tower 4F/Room 7)

  • 主 催
    T-Engineフォーラム/ TRONイネーブルウェア研究会
  • 共 催
    東京大学大学院情報学環 ユビキタス情報社会基盤研究センター
  • 特別協賛
    イーソル株式会社/イマジネーションテクノロジーズ株式会社/サトーホールディングス株式会社/スパンション/大和ハウス工業株式会社/東京ミッドタウン/日本電気株式会社/パーソナルメディア株式会社/株式会社パスコ/株式会社 日立製作所/富士通株式会社/フリースケール・セミコンダクタ・ジャパン株式会社/株式会社 的/矢崎総業株式会社/ユーシーテクノロジ株式会社/株式会社横須賀テレコムリサーチパーク/株式会社リコー/ルネサスエレクトロニクス株式会社
  • 広告協賛
    伊藤忠商事株式会社
13:00受付開始
13:30〜14:30基調講演「オープンデータでバリアフリーを支援する」
坂村 健
TRON イネーブルウェア研究会 会長
東京大学大学院 情報学環 教授
YRP ユビキタス・ネットワーキング研究所 所長
14:30〜14:50休憩
14:50〜16:30パネルディスカッション 

登壇者
越塚 登
東京大学大学院 情報学環 教授
三沢 智法
豊島区 都市整備部 拠点まちづくり担当課長
古橋 大地
マップコンシェルジュ株式会社 代表取締役
一般社団法人オープンストリートマップ・ファウンデーション・ジャパン 副理事長
16:30閉会

基調講演

オープンデータでバリアフリーを支援する

坂村 健
TRON イネーブルウェア研究会 会長
東京大学大学院 情報学環 教授
YRP ユビキタス・ネットワーキング研究所 所長

オープンデータとは、多くの人が利用できるような形で公開されたデータのことです。公共交通オープンデータでは、運行情報などのリアルタイム情報や、駅・停留所・空港などの施設情報をオープン化します。これにより、さまざまなサービスの構築がボランティアの手により可能になります。たとえば、交通機関の運行システムに直接接続し、電車遅れの際の復旧見込や次の電車の位置情報や駅のアナウンス内容をリアルタイムに取得ができれば、それらを音声読み上げや手話表示するスマートフォン用アプリの開発も容易です。これにより、視覚や聴覚が不自由で駅の電光掲示板やアナウンスから情報を取れなくても戸惑うことはなくなります。

また、交通機関や施設の出入口の段差やエレベータの有無、多目的トイレの所在などのバリアフリー情報で問題になる継続的メンテナンスに関しても、オープンデータのアプローチが有効です。行政や公共団体だけでなくボランティアや地域社会の手による情報も集約してオープンデータ化が進められようとしています。これにより、身体の不自由の種類や程度にあわせて目的地に移動するための最適な経路を案内するアプリ開発も可能になります。

今年のTEPS は、オープンデータのアプローチによるバリアフリー支援がテーマです。データの収集・集約、オープン化、利活用、メンテナンスといったさまざまな視点から議論を深めていきます。

登壇者

公共交通情報のオープンデータを活用したバリアフリー情報提供

越塚 登
東京大学大学院 情報学環 教授

私達が街に出て様々なところに移動するためには、多くの情報が必要です。特に鉄道やバスなどの公共交通機関を利用する際には、駅の場所にはじまり、目的地へ行く電車はどのホームにいつやってくるのか、バス停はどこのあるのかなど、駅やターミナルなどにあるサインや構内放送をはじめとした様々な情報を判断して移動します。こうした情報は、サインや掲示板への表示だけでは視覚障害の方にはわかりませんし、放送案内は聴覚障害の方にはわかりません。もしも「データ」でこうした情報が提供されれば、利用者が持つスマートフォンなどの携帯型端末で音声で読み上げたり画面に表示したりして、利用者にとって最適な方法で提供することが可能になります。

そこで期待されるのが、公共交通情報をデジタルデータで提供する「オープンデータ」です。私達は、東京近郊の大手鉄道会社や空港、航空会社、関係省庁、東京都の参画を得て「公共交通オープンデータ研究会」を組織して、公共交通の施設情報や運行情報をデジタルデータで提供する試みを行っています。

東京大学坂村・越塚研究室ではこのオープンデータを利用して、視覚障がい者の方に公共交通の運行情報を提供するシステム “SaSYS” (Swipe and Scan Your Surroundings)を開発しました。SaSYS は、オープンにされている運行情報をAPI を使って取得し、それを音声で読み上げて情報提供を行うことができます。このように公共交通のオープンデータを用いれば、聴覚障害者のための案内システムも車いすの方のバリアフリーガイドのシステムも構築できると考えています。

本セッションでは、SaSYS など公共交通オープンデータを用いた取り組みのご紹介とオープンデータによるバリアフリー支援のさらなる可能性についてお話したいと思います。

公共空間におけるオープンデータアプローチの可能性

三沢 智法
豊島区 都市整備部 拠点まちづくり担当課長

本区では、重点整備地区における面的・一体的なバリアフリー化を推進するため、「池袋駅地区バリアフリー基本構想」を平成23 年4 月に策定し、区民、事業者、行政の協働によるバリアフリー整備の実現に取り組んできました。また、27 年春の区庁舎移転を契機に、新庁舎周辺を重点整備地区に加えた「池袋駅地区バリアフリー基本構想【エリア拡大編】」を26 年4 月に策定しました。

パネルセッションでは、本基本構想の進捗状況を報告するとともに、本区が全国に先駆けて進めてきたセーフコミュニティ活動や「視覚障碍者外出支援事業」の概要などについてご紹介します。

OpenStreetMapプラットフォームを活用した車いすユーザー向けバリアフリーマップWheelmapのご紹介

古橋 大地
マップコンシェルジュ株式会社 代表取締役
一般社団法人オープンストリートマップ・ファウンデーション・ジャパン 副理事長

Google Maps がローンチする1 年前の2004 年、イギリスロンドン大学(UCL) の大学院生だった Steve Coast 氏によって作られ、その後世界中に広がった、草の根のオープンな地図サービスプロジェクトであるOpenStreetMap( 以下OSM) は、2014 年には190 万人もの地図編集者を抱える世界最大のマッピングコミュニティへと成長した。

この地図データは、オープンデータベースライセンスであるODbL ライセンスを採用し、商用利用も含めて自由に利用可能であることから、現在では多くのウェブマップサービスなどに利用され、様々な目的に応じたプロジェクトが数多く生み出されている。中でも、ドイツ在住の車椅子マッパーである Raul Krauthausen 氏がはじめたWheelmap プロジェクトは、世界中の店舗や公共施設情報に、車椅子でアクセス可能かそうでないかをカテゴライズして共有することで、多くの車椅子ユーザーが街に出るきっかけを与えた。

このような新しい形のバリアフリーマッピングの可能性と、オープンデータならではの他サービスとの連携など、これからのバリアフリーマッピングのあり方についてご紹介する。

TRONイネーブルウェアとTEPS

TRON プロジェクト(プロジェクトリーダー:坂村健)が実現している「どこでもコンピュータ」には、すべての人がコンピュータを使えることが重要です。年齢や身体のさまざまな障碍を問わず、あらゆる人を含めて考えなければなりません。

TRON プロジェクトで設計しているコンピュータシステムは、真にすべての人が使えるものとするための「TRON イネーブルウェア仕様」を定め、高齢者や障碍者への対応をその基本設計の段階から考慮しています。TRON イネーブルウェア仕様は、1987 年から、障碍者の方々にも参加をいただいて、「TRON イネーブルウェア研究会」の場で検討された成果です。

「TRON イネーブルウェア研究会」(会長:坂村健)は1987年に組織されました。イネーブルウェア仕様の策定・実装のみにとどまらず、イネーブルウェアの理念の普及活動、障碍者とコンピュータのためのシンポジウムTEPS の開催などの活動を通して、障碍者の生活向上・社会参加をサポートするための活動を行っています。

TEPS は、「TRON Electronic Prosthetics Symposium」の略です。「TRON イネーブルウェアシンポジウム」を短く「TEPS(テップス)」とよぶこともあります。TRON 電子補綴技術(TRON Electronic Prosthetics: TEP)は、「イネーブルウェア」と同じ意味を持つ言葉です。「補綴(ほてい/ほてつ)術:Prosthetics」という言葉は、従来、人工臓器や義手・義足などの開発研究を行う医学の一分野を指した言葉です。近代の技術革新、特にコンピュータ技術の発達は、このような従来の補綴具の領域を超える新しい補綴機器の開発を可能としています。そこで、TRON ではこの新しい概念を表すために、「補綴:Prosthetics」という従来の言葉をそのまま使用し、「TRON 電子補綴技術」とよんでいます。

しかし「補綴:Prosthetics」という言葉は、正確であっても多くの人にとってなじみの薄い専門用語です。そこで、「イネーブルウェア:Enableware」という新語も作り、これを広く使用しています。障碍者や高齢者など、何かが「出来なくなっている人びと:Disabled Persons」にとって、その何かを「可能にする:Enable」ためのハードウェア群・ソフトウェア群を指します。

これまでのTEPSのあゆみ

TEPS’88 1988年 7月  
TEPS’90 1990年 3月  
TEPS’92 1992年12月 電脳都市とイネーブルウェア
TEPS’93 1993年12月 イネーブルウェアとどこでもコンピュータの世界
TEPS’94 1994年12月 障碍者を助けるコンピュータネットワーク
TEPS’95 1995年12月 テクノロジーは障碍者に何を可能にしてくれるか?
TEPS’96 1996年12月 大学キャンパスにおける障碍者サポート
TEPS’97 1997年12月 バリアを越えて楽しむエンターテイメント
TEPS’99 1999年 3月 電子商取引時代のイネーブルウェア
TEPS2000 1999年12月 情報機器のためのイネーブルウェアデザイン
TEPS2001 2000年12月 バリアフリーに活かす次世代携帯電話
TEPS2002 2001年12月 どこでもコンピュータ時代のイネーブルウェア
TEPS2003 2002年12月 ユビキタス・コンピューティングとイネーブルウェア
TEPS2004 2003年12月 ユビキタス・コンピューティングとイネーブルウェア(Part2)
~私たちは今、何ができるのか~
TEPS2005 2004年12月 だれでもできるためのユビキタス
TEPS2006 2005年12月 ユビキタス社会基盤のユニバーサルデザイン
TEPS2007 2006年12月 公共交通のユニバーサルデザイン
TEPS2008 2007年12月 場所情報システムのユニバーサルデザイン
~自律移動支援に求められるサービス・実験結果の検証~
TEPS2009 2008年12月 ユビキタス・コンピューティングにおけるユニバーサルデザイン
TEPS2010 2009年12月 ユビキタス社会におけるユニバーサルデザイン
TEPS2011 2010年12月 バリアフリー 2.0
TEPS2011 夏1 2011年7月 3.11以降のバリアフリーの後退を考える
TEPS2011 夏2 2011年7月 認知症へのテクノロジー支援を考える
TEPS2O12 2011年12月 緊急時の情報伝達のユニバーサルデザイン
TEPS2O13 2012年12月 障碍者、高齢者を支援する最新デジタル技術
TEPS2O14 2013年12月 オープンアプローチでバリアフリーマップをつくる
TEPS27th 2014年12月 オープンデータでバリアフリーを支援する