TRONイネーブルウェアシンポジウム2O1O
TEPS2O1O ユビキタス社会におけるユニバーサルデザイン
2009年12月12日(土) 13:30~16:30(13:00 受付開始)
東京ミッドタウン カンファレンス(Midtown Tower 4F)
- 主 催
T-Engineフォーラム/社団法人トロン協会/TRONイネーブルウェア研究会 - 共 催
東京大学大学院情報学環 ユビキタス情報社会基盤研究センター - 特別協賛
矢崎総業株式会社
株式会社アプリックス/NEC/株式会社サトー/大日本印刷株式会社/東京ミッドタウン/凸版印刷株式会社/パーソナルメディア株式会社/株式会社パスコ/株式会社 日立製作所/ 富士通株式会社/ユーシーテクノロジ株式会社/株式会社横須賀テレコムリサーチパーク/株式会社ルネサス テクノロジ
13:00 | 受付開始 |
13:30〜14:30 | 基調講演「ユビキタス社会におけるユニバーサルデザイン」 坂村 健(TRONイネーブルウェア研究会 会長/東京大学大学院情報学環 教授/YRPユビキタス・ネットワーキング研究所 所長) |
14:30〜14:50 | 休憩 |
14:50〜16:30 | パネルセッション「ユビキタス情報社会のユニバーサルデザインのガイドライン」 パネリスト 髙橋 総一 国土交通省 政策統括官付参事官 岩下 恭士 毎日新聞社デジタルメディア局 ユニバーサロン編集長 越塚 登 東京大学大学院情報学環 教授 コーディネータ 坂村 健 |
16:30 | 閉会 |
TRONプロジェクトは20年以上にわたってユニバーサルデザインに基づくユビキタス社会実現のための基盤技術を開発してきました。特にここ数年は、国土交通省の自律移動支援プロジェクトに深く関わり、本シンポジウムでは、単に技術だけでなくその運用や制度設計に関わる提言を行ってきました。今年は、行政、技術、利用者などのさまざまな立場から、TRONが考えるユビキタス社会を多角的な視点で議論したいと思います。
基調講演
ユビキタス社会におけるユニバーサルデザイン
坂村健
TRONイネーブルウェア研究会 会長/東京大学大学院情報学環 教授
YRPユビキタス・ネットワーキング研究所 所長
TRONイネーブルウェア研究会では、20年以上にわたり“どこでもコンピュータ環境”やユビキタス情報社会におけるユニバーサルデザインの実現にむけて活動してきた。TRONイネーブルウェア研究会の活動やその中で行われた議論の代表的な成果を以下に示す。
・BTRONイネーブルウェア仕様(1988)
BTRONイネーブルウェア仕様は、TRONイネーブルウェア研究会の議論を基にして、パーソナルコンピュータにおいて身体障碍者を支援するための主にソフトウェア機能の仕様をまとめたものである。
・BTRONイネーブルウェア(実装)(1988)
BTRONイネーブルウェアは、上記の仕様書に沿ってBTRON OSに実装された。汎用パーソナルコンピュータ上に、身体障碍者を支援する機能を標準機能として搭載したものであり、当時としては先進的な成果であった。キーボードやマウスの有効時間や無効時間などが柔軟に調整できたり、ウィンドウやメニューの大きさや太さを利用者の身体の特性にあわせて調整できたりする。このOSは、現在「超漢字V」(パーソナルメディア社)として市販されている。
・トロン電脳生活ヒューマンインタフェース仕様(1993)
ユビキタスコンピューティング環境において、一貫したヒューマンインタフェースを提供するための利用者インタフェースガイドラインを定めたものである。TRONイネーブルウェア研究会で日ごろから議論されているさまざまな電子機器のヒューマンインタフェースのユニバーサルデザインが多く取り込まれている。現在、『トロンヒューマンインタフェース標準ハンドブック』(パーソナルメディア刊)として入手できる。
・IEC TR 61997:”Guidelines for the user interface in multimedia equipment for general purpose use”(2001)
2001年に国際標準化機関であるIECによって定められたテクニカルレポートである。さまざま用途のマルチメディア機器のためのユーザインタフェースのガイドラインを定めており、「トロン電脳生活ヒューマンインタフェース仕様」に基づいている。
・身体障碍を考慮したヒューマンナビゲーション
国土交通省「自律移動支援プロジェクト」や東京都「東京ユビキタス計画」では、あらゆる人が街を移動するために必要な情報をいつでもどこでも得られる、ユニバーサルデザイン化された街作りを目指している。そこで用いられている歩行者ナビゲーションシステムは、場所マーカーなどのユビキタスインフラから発信される場所をucodeを用いて知り、小型携帯端末ユビキタスコミュニケーター(UC)を使い目的地まで歩行者を案内を提供するシステムである。このナビゲーションシステムでは、車いすの人をエレベーターに案内したり、段差のない道を案内するといったように、利用者の身体や移動方法の特性に応じて最適な経路を提示することができる。
・音声ナビゲーション
ユビキタスコミュニケーターを用いたナビゲーションシステムでは、利用者にさまざまな方法で経路を提示することができる。画面上に地図で表示をしたり、その場のパノラマ写真上に矢印で行先を示すといったビジュアルな方法だけでなく、視覚障碍者が使えるように、音声で道案内をする機能を備えている。音声による説明では、TRONイネーブルウェア研究会での議論の成果が反映されている。例えば、まず最初にゴールまでの道順の概要を説明し、次に詳細な移動方法を説明するといった方式がとられている。
・ユビキタスコミュニケーター手話インタフェース
手話は聴覚障碍者にとって重要なコミュニケーション手段である。ユビキタスコミュニケーターでは、手話映像を用いた情報出力システムが備えられており、必要な情報を手話を通じて得ることができる。
・電子白杖を使った盲人ナビゲーションシステム
点字ブロックの中にucodeタグを埋め込み、ucodeタグの読み取り装置を備えた電子白杖を使って、点字ブロックから情報を読み取る。その情報を使って視覚障碍の方をナビゲーションする。
・Dice接近検知システム
街中の道路上では、視覚障碍者や聴覚障碍者は、自分の身の回りの状況の検知が難しいため、自動車や自転車などの走行物の接近に気付かず危険な状況になりやすい。このシステムは、こうした状況を解決するために、超小型タグDiceを自転車や自動車に取りつけ、歩行者が近づくと危険を知らせるシグナルを発する。シグナルは、音声・発光・バイブレーターなどさまざまな方法が用意されており、視覚や聴覚に障碍があっても、走行物の接近を知覚することができる。
・インテリジェントシニアカー
インテリジェントシニアカーは、シニアカー(電動車いす)にユビキタスコミュニケーターを装備して、ナビゲーションなどのさまざまな情報を提供できるようにしたシステムである。肢体障碍者だけでなく、長距離を歩くことが難しい高齢者の方々にも有効なシステムである。シニアカーの通行条件に合致した経路をナビゲーションする機能を備えている。
・TRON U2ガイドライン
(ユビキタス&ユニバーサルデザインガイドライン)
自律移動支援プロジェクトや東京ユビキタス計画における取組みや成果に基づいて、ユビキタスコンピューティング環境における情報システムのユニバーサルデザインのありかたをまとめているのが、「TRON U2ガイドライン」(ユビキタス&ユニバーサルデザインガイドライン)である。これまで、TEPSの中でも活発に議論された成果がまとめられている。
今年の「TRONイネーブルウェアシンポジウム(TEPS2010)」では、これまでのTRONイネーブルウェア研究会の成果を振り返り、その成果を私達の生活の中で実現し、人々の生活を豊かにしていくために、さらに何をしなければならないのか、技術面、制度面、経済面など、さまざまな角度から話し合う。
パネリスト
髙橋 総一
国土交通省 政策統括官付参事官
1980年北海道大学卒業、運輸省入省。航空、港湾、鉄道行政等に携わるとともに、山口大学工学部講師、鉄道会社非常勤役員等を勤める。大臣官房公共事業調査室長、新潟県交通政策局長を経て、2009年4月より現職。「モビリティサポート」等を推進している。
岩下 恭士
毎日新聞社デジタルメディア局 ユニバーサロン編集長
多機能ユビキタス端末への期待
毎日新聞社の情報サイト「毎日jp」の中で、障碍の有無や年齢、性別、国籍にかかわらず誰もが利用できるユニバーサルデザインの技術やサービスにフォーカスした情報コーナー「ユニバーサロン」を担当しています。現在、国土交通省が中心となって進めている自律移動支援プロジェクトについては、単に報道機関としてだけでなく、私自身一全盲者としてガイドヘルパーがいなくてもいつでもどこでも行きたいところへ気軽に行ける夢のようなサービスとして心から早期実現を願っています。
これまで浅草や銀座などで行われた実証実験に参加して感じたのは、まず求められるのは、コンテンツそのものに障碍の有無や種別にかかわらず、すべての旅行者にとって有効なユニバーサルな位置情報と歩行者ナビゲーションサービスであるということです。そして次に、段差のないルートや階段の段数など個々の歩行者の身体的状況によって求められるルート選択、多機能トイレの場所などバリアフリーに特化したコンテンツの提供が望まれます。そして最後に求められるのは、これらの情報の「出し方」の工夫です。具体的には、視覚に障碍のある人には専用携帯端末から音声または点字、振動で情報を提供し、聴覚障碍者には文字や手話で提供することが期待されます。
私は現在、光を音に変換して伝える感光機や音声色識別装置、超音波で障碍物を感知して振動に変換する超音波ソナー、音声方位コンパスなどを白杖と併用して歩いていますが、悩みはこれらの専用デバイスをいくつも身に付けて歩かなければならないことです。今後、実用化に耐えうる公益性の高いユビキタスデバイスの開発には、iPhoneのような携帯端末一つで複数の機能を実現できるような組み込み技術の製品化を期待します。
ユニバーサロン:http://www.mainichi.jp/universalon/
越塚 登
東京大学大学院情報学環 教授
YRPユビキタス・ネットワーキング研究所 副所長
1988年よりトロンプロジェクトに参画し、(社)トロン協会とT-Engineフォーラの各種WG主査を務める。その他、(社)電子情報通信学会・福祉情報工学専門委員会・専門委員、総務省ユビキタスセンサーネットワーク技術に関する調査研究会ワーキンググループ・座長代理、国土交通省「自律移動支援に係わる場所情報検討専門委員会」委員、等を歴任。
専門は情報科学。トロンプロジェクトに参加し、以後イネーブルウェアをはじめ、ヒューマンインタフェースやユビキタスコンピューティングの研究に取り組んできた。現在は特にユビキタスコンピューティング環境のためのプラットフォームであるT-Engineプロジェクト、ユビキタスID技術の確立に取り組んでいる。
TRONイネーブルウェアとTEPS
TRONプロジェクト(プロジェクトリーダー:坂村健)が実現している「どこでもコンピュータ」には、すべての人がコンピュータを使えることが重要です。年齢や身体のさまざまな障碍を問わず、あらゆる人を含めて考えなければなりません。TRONプロジェクトで設計しているコンピュータシステムは、真にすべての人が使えるものとするための「TRONイネーブルウェア仕様」を定め、高齢者や障碍者への対応をその基本設計の段階から考慮しています。TRONイネーブルウェア仕様は、1987年から、障碍者の方々にも参加をいただいて、「TRONイネーブルウェア研究会」の場で検討された成果です。
「TRONイネーブルウェア研究会」(会長:坂村健)は1987年に組織されました。イネーブルウェア仕様の策定・実装のみにとどまらず、イネーブルウェアの理念の普及活動、障碍者とコンピュータのためのシンポジウムTEPSの開催などの活動を通して、障碍者の生活向上・社会参加をサポートするための活動を行っています。
TEPSは、「TRON Electronic Prosthetics Symposium」の略です。「TRONイネーブルウェアシンポジウム」を短く「TEPS(テップス)」とよぶこともあります。TRON電子補綴技術(TRON Electronic Prosthetics: TEP) は、「イネーブルウェア」と同じ意味を持つ言葉です。「補綴(ほてい/ほてつ)術:Prosthetics」という言葉は、従来、人工臓器や義手・義足などの開発研究を行う医学の一分野を指した言葉です。近代の技術革新、特にコンピュータ技術の発達は、このような従来の補綴具の領域を越える新しい補綴機器の開発を可能としています。そこで、TRONではこの新しい概念を表すために、「補綴:Prosthetics」という従来の言葉をそのまま使用し、「TRON電子補綴技術」とよんでいます。
しかし「補綴:Prosthetics」という言葉は、正確であっても多くの人にとってなじみの薄い専門用語です。そこで、「イネーブルウェア:Enableware」という新語も作り、これを広く使用しています。障碍者や高齢者など、何かが「出来なくなっている人びと:Disabled Persons」にとって、その何かを「可能にする:Enable」ためのハードウェア群・ソフトウェア群を指します。
これまでのTEPSのあゆみ
TEPS’88 | 1988年 7月 | |
TEPS’90 | 1990年 3月 | |
TEPS’92 | 1992年12月 | 電脳都市とイネーブルウェア |
TEPS’93 | 1993年12月 | イネーブルウェアとどこでもコンピュータの世界 |
TEPS’94 | 1994年12月 | 障碍者を助けるコンピュータネットワーク |
TEPS’95 | 1995年12月 | テクノロジーは障碍者に何を可能にしてくれるか? |
TEPS’96 | 1996年12月 | 大学キャンパスにおける障碍者サポート |
TEPS’97 | 1997年12月 | バリアを越えて楽しむエンターテイメント |
TEPS’99 | 1999年 3月 | 電子商取引時代のイネーブルウェア |
TEPS2000 | 1999年12月 | 情報機器のためのイネーブルウェアデザイン |
TEPS2001 | 2000年12月 | バリアフリーに活かす次世代携帯電話 |
TEPS2002 | 2001年12月 | どこでもコンピュータ時代のイネーブルウェア |
TEPS2003 | 2002年12月 | ユビキタス・コンピューティングとイネーブルウェア |
TEPS2004 | 2003年12月 | ユビキタス・コンピューティングとイネーブルウェア(Part2) ~私たちは今、何ができるのか~ |
TEPS2005 | 2004年12月 | だれでもできるためのユビキタス |
TEPS2006 | 2005年12月 | ユビキタス社会基盤のユニバーサルデザイン |
TEPS2007 | 2006年12月 | 公共交通のユニバーサルデザイン |
TEPS2008 | 2007年12月 | 場所情報システムのユニバーサルデザイン ~自律移動支援に求められるサービス・実験結果の検証~ |
TEPS2009 | 2008年12月 | ユビキタス・コンピューティングにおけるユニバーサルデザイン |
TEPS2010 | 2009年12月 | ユビキタス社会におけるユニバーサルデザイン |