[Report]TRONイネーブルウェアシンポジウム2OO9

TEPS2OO9 ユビキタス・コンピューティングにおけるユニバーサルデザイン

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2008年12月13日 13:30~16:30
東京ミッドタウン カンファレンス(Midtown Tower 4F)

  • コーディネータ
    坂村 健(TRONイネーブルウェア研究会会長/東京大学教授)
  • パネリスト
    秋山哲男(首都大学東京 都市環境科学研究科観光科学専修 教授)
    松本充司(早稲田大学ワイヤレス通信応用研究所 所長/早稲田大学大学院 国際情報通信研究科 教授)
    河村宏 (DAISYコンソーシアム 会長/国立障害者リハビリテーションセンター 特別研究員)
    高村明良(筑波大学附属視覚特別支援学校 教諭)
    長谷川洋(日本聴覚障害者コンピュータ協会 顧問)
    (敬称略)

ユビキタス・コンピューティングにおけるユニバーサルデザイン

TEPSはコンピュータのデザイン、あるいは情報提供の研究のためのシンポジウムであり、ユニバーサルデザインとしてのコンピュータに重点を置いている。今回のTEPS2009は「ユビキタス・コンピューティングにおけるユニバーサルデザイン」をテーマに議論がなされた。

まず坂村教授が基調講演を行い、組込みコンピュータの現状について触れた。今までコンピュータが入らなかったモノの中にコンピュータを組み込むことにより今までできなかったことが実現できる。その中でも、場所の中にコンピュータを入れることを重要視しており、既存のGPSにおいても場所を知ることができるが、GPSだけで障碍を持っている方を誘導することはできない。そこで次のインフラとして、街の中にユビキタスのマーカを埋め込むことによる歩行者の誘導を研究していると述べた。コンピュータを道の中に埋め込むなどの研究は誰もやっていなかったので、いろいろなことを試すために実験をしてきたが、実用化には10年ぐらいかかる。国土全部にチップを埋め込むにはどういう仕様のものを埋め込むのかといったルールづくりが必要で、ガイドラインをきちんと決めないでいると、いろんな方法が乱立してしまう。それらをどう一本化するかが大切だと述べた。

ユビキタス情報社会のユニバーサルデザインのガイドライン

この基調講演を受けて、ユビキタス情報社会のユニバーサルデザインのガイドラインに対して議論がなされた。

国土交通省のガイドライン

秋山 哲男 氏
秋山 哲男 氏

まず秋山教授から国土交通省の障碍者対策の道路と公共交通の2つのガイドラインについて説明がなされた。

秋山教授は視覚障碍者の誘導のために、1973年に2つの対策が行われたことに触れた。1つは、道路の段差切り下げ、もう1つは視覚障碍者誘導用ブロックの敷設であり、それらが1983年にできた最初のガイドラインにつながったと述べた。現状については、2000年までのガイドラインでは点字や誘導ブロック敷設が中心だったが、2001年に音のガイドラインの追補版が出され、その進展を確認した。また、1980年代にNECと日本道路が、杖でブロックを触ると「ここは○○交差点です」等の音声を出すしくみを紹介したが、こうした障碍者対策にアメリカの場合たくさんの資金投入がなされるが、日本ではあまり資金投入されないため、技術的開発がうまくいかないのかもしれないと述べた。

国際標準としてのガイドライン

松本 充司 氏
松本 充司 氏

続いて松本教授が国際標準化のアクセシビリティのガイドラインとして、ITUの中でのアクセシビリティの位置づけを紹介した。

近年、身体障害者の権利やアクセシビリティの技術的標準が徐々にできており、それに基づくITUのアクセシビリティの活動は、基本的には2つのポイントがあり、1つは、アクセシビリティに関する技術の標準化の推進、もう1つは、世界中のアクセシビリティに関する機関に対して、イニシアティブをとって推進していくことだと述べた。

次にITUのガイドラインを紹介し、基本的にはISO/IECでの取り組み、ガイド71がベースになっている。これは高齢者や身障者のためのインタフェースのガイドラインになっており、ガイド71の詳細版について標準化を考えたことがITUの勧告になるきっかけであると述べた。アクセシビリティに関するガイドラインはたくさんあるので、それをまとめることが今後必要だと感じてると述べた。

標準としてのDAISY

河村 宏 氏
河村 宏 氏

続いて河村氏から「標準としてのDAISY」として、アクセシビリティについての課題とそれに対する運動について説明がなされた。

DAISYはもともと、視覚障碍者が使っていたカセットテープによる録音図書が目次やページを使ってナビゲーションできないという課題に対するもので、デジタル技術を使って音声でも本と同じようなナビゲーションをすることを目標に進めていた。ところがテキストシンクロナイゼーションされた音声をテキストでサーチできると、今しゃべっているところをハイライト表示すればディスレクシアと呼ばれる認知障碍の人を助けることができるとか、あるいは精神障碍の方が暮らすためのマニュアルに利用できるとか、そういった認知を支援する効果があることがわかった。そういったことを1つ1つ広げながら、DAISYコンソーシアムは、オープンな形で提案の募集をしていると述べた。

障碍の特性とガイドライン

高村 明良 氏
高村 明良 氏
長谷川 洋 氏
長谷川 洋 氏

続いて高村氏から今の話を受けたコメントとして、移動に関するユニバーサルアクセスを考えるときに、障碍の特性によっての違い、そのときの技術の違いを意識するべきであり、身体障碍といっても幅が広く、肢体不自由と視覚障碍、聴覚障碍では特性が違うと述べた。そういった中でも、状況はよくなってきたと感じているが、ここで考えておかなければいけないのは、視覚障碍の場合の移動は、情報さえあれば移動できるが、人間の移動目的に合わせてサポートするには、今までの方法や技術では限界が来ているため、次の技術を使った移動支援をしなければいけないということである。また今までのアプローチは、何か新しいものを作って移動しやすくしようという考え方であるが、意識を変えていくことも重要であり、そういった基盤をきちんとしておかないとガイドラインが活かされていかないと述べた。
また、自身も聴覚障碍を持つ長谷川氏は、視覚障碍に比べて遅れがちに見える聴覚障碍に対する対策への期待を述べられた。

最後に坂村教授から柔軟に変えられるようなガイドラインを作成するためにこれからも時間をかけてディスカッションしていくと述べ、今回のTEPSは終了した。