[Report]TRONイネーブルウェアシンポジウム2O11

TEPS2O11
バリアフリー 2.0

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2010年12月18日 13:30~16:30
東京ミッドタウン カンファレンスRoom7

  • 講演者
    坂村 健(TRONイネーブルウェア研究会会長/東京大学大学院情報学環教授/YRPユビキタス・ネットワーキング研究所所長)
  • パネリスト
    鈴木 研司(国土交通省 政策統括官付参事官付 政策企画官)
    立松 英子(東京福祉大学大学院 社会福祉学部 教授)
    越塚 登(東京大学大学院情報学環 教授)
    (敬称略)

初の動画配信とTwitter発信

オリンピックの後にパラリンピックが開催されるように、毎年TRONSHOWの後にはTEPSがある。TEPSとは、技術によって障碍者をいかに支援するかを考えようと坂村教授が主催する取り組みで、関係者の熱意により、1988年からずっと続いている。

毎年、会場には障碍者のために手話通訳と要約筆記が用意されるが、今回は初の試みとして、来場できない人にも会場の声が届くように、越塚教授が指揮をとり、インターネットで本セッションを動画で配信し、さらにTwitterとも連携して、参加者が情報を発信できるしくみを整えた。


基調講演

「バリアフリー 2.0」

坂村 健 氏

坂村 健 氏

前半の基調講演で、坂村教授はこの10年ほど取り組んでいる障碍者の自律移動支援について解説した。

 バリアフリーマップが必要

自律移動に必要な技術は、この数年でかなり進んだ。位置情報の測定誤差を数十cm以内に収めることも可能になった。さらに技術を高度化することも重要だが、「技術の進歩だけでは問題は解決しない」と坂村教授は言う。

これらの位置情報を利用して、たとえば障碍者用の地図「バリアフリーマップ」を作る必要がある。健常者用の地図とは異なり、道の傾斜や段差、車いす対応の有無、ふたのない側溝などの付加情報がないと、障碍者は安心して移動できない。そして、この地図は電子データでなければならない。障碍に応じて、音声や画像で提供しなければならないからだ。

 誰が公共インフラを作るのか

そうなると、地図に必要な情報を構造化してコンピュータで処理する基盤、すなわち情報のインフラが必要になる。地図はあらゆる場所で使うから、インフラも日本全体をカバーする必要がある。さらに、地図が常に最新状態を保つようにメンテナンスし続けなければならない。これは大変な作業である。

いったい誰がこれを作るのか。景気に左右される民間企業だけでは難しい。ボランティアでは責任問題などの限界がある。「国がやるべき」というのが多くの人の気持ちだろう。だが、現実には国でも全部はできないのだ。

 1人でなくみんなでやるのが「2.0」

大国アメリカでも、政府だけではすべてのサービスを提供できないとして、ネットを使って民間活力を公共インフラの構築に生かす取り組みが始まっている。これが「Gov 2.0」(Government 2.0)である。

「障碍者支援も、ネットを使ってみんなで知恵を寄せよう、公開された技術を使ってみんなでイノベーションを起こそう、というのがこれからの考え方。それが“バリアフリー 2.0”」と坂村教授は力説する。

もちろん、みんなでやった場合の責任の所在など、検討すべき課題は多い。だが、それを乗り越えないと先には進めない。「東京を、世界で最も早くこういうしくみを持った街に変えたい。そのために、一刻も早く行政が音頭を取ること。その上で、皆さんといっしょに知恵を出して解決していきたい」と、障碍者支援の今後の方向性を示した。


パネルディスカッション

後半は、立松氏、鈴木氏、越塚氏が加わり、講演とパネルディスカッションが行われた。

 技術者は障碍の多様性を理解すべき

立松 英子 氏

立松 英子 氏

主に知的障碍者の問題に取り組んでいる立松教授によると、障害者手帳を持つ人は全国で723.8万人(平成18年度)で、この数はここ10年増えて続けているという。これは、障碍者を支える側の割合が減り、その負担が増え続けていることを意味している。「この負担をICT(情報通信技術)で軽減しないと、この先大変なことになる」と立松氏は危機感を表明する。

だが、障碍の分布は身体障碍、視覚障碍、聴覚障碍、心身障碍などが重なり合い、非常に複雑だ。障碍の出方は個別性が高く、必要な支援もそれぞれ異なり、ICTの技術者が障碍者の不自由さを正しく理解するのは難しい。

必要なことは、適切な支援とわかりやすい環境。立松氏は「技術者が障害者の複雑多岐なニーズを正しく理解して、必要な情報を音や信号、写真などマルチメディアで発信してほしい。特にバイブレーションなどの触覚刺激を忘れないで」と、多様な支援を訴えた。

 歩行空間ネットワークデータの整備

鈴木 研司 氏

鈴木 研司 氏

次に国土交通省の鈴木氏が、ICTを活用した歩行者の移動支援について解説した。国交省は2010年9月、技術開発の方向性や制度、法律などの課題を話し合うために、坂村教授を座長として「ICTを活用した歩行者の移動支援に関する勉強会」を立ち上げた。メンバーは、この日のパネリストである立松氏や鈴木氏を含む5人。鈴木氏によると、国の重要な施策として、これをずっと継続するとのこと。

また、先ほど坂村教授の話に出た「バリアフリーマップ」を、国交省は「歩行空間ネットワークデータ」という名前で整備し始めたところであるという。段差の有無、幅員、スロープなどの情報を測量したり地図から取得して、歩行空間の地図データとして公開する予定である。

いったん公開すると、その後の維持管理も難しいが、国交省が取得して公開したデータを、国や地方自治体だけでなく、民間、NPO、障碍者自身に運用や更新をしてもらうしくみを検討中であるという。

鈴木氏は「特に高齢者や障碍害者が常に新鮮なデータを使えるように、議論しながら進めていきたい」とした。

 Twitterに続々とコメント

越塚 登 氏

越塚 登 氏

このセッションの間を通じて、会場内の参加者や動画配信の視聴者からは、Twitterに多くのコメントが寄せられた。

「みんなでバリアフリーマップを作ったとき、うっかり間違った情報を登録して事故が起こっても、逮捕しないでください」「道路にタグを埋め込むなら、最初に工事するときにそういうことを考えないといけないのでは」「バリアフリーマップ、日本津々浦々ではどのくらいコストがかかるのだろう」…。これらを元に、会場では活発な意見交換が続いた。

TEPSの目的のひとつは、障碍者支援について社会に広く情報を発信すること。今回、動画配信とTwitterという新しい技術を使った情報発信の新しい可能性へのチャレンジは、成功したと言えるだろう。

カテゴリー: TRONイネーブルウェアシンポジウム(TEPS)