[Report]TRONイネーブルウェアシンポジウム2O1O

TEPS2O1O
ユビキタス社会におけるユニバーサルデザイン

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2009年12月12日 13:30~16:30
東京ミッドタウン カンファレンス

主催:T-Engineフォーラム/社団法人トロン協会/TRONイネーブルウェア研究会
共催:東京大学大学院情報学環 ユビキタス情報社会基盤研究センター

例年、TRONSHOWとともに開催されるTEPS。このシンポジウムは、障碍者や高齢者を含めて誰でも使えるユニバーサルデザインによるユビキタス社会実現のために、技術だけでなく運用や制度設計にも多くの提言を行ってきた。

今回も、前半の坂村健教授の基調講演と、後半のパネルディスカッションを通して、多角的な視点から多くの意見が発表された。


基調講演

ユビキタス社会におけるユニバーサルデザイン

  • 講演者
    坂村 健(TRONイネーブルウェア研究会会長/東京大学大学院情報学環教授/YRPユビキタス・ネットワーキング研究所所長)

20年以上取り組んでわかったこと

坂村教授は「このシンポジウムはすでに20年以上続けています」と話し始めた。当初は障碍者の意見をシステムに生かすのが目的だったが、長年やってみて、技術だけでは解決できない法律や社会のしくみ、特に使う人の気持ちが重要であることがわかってきたという。つまり社会全体の変革が必要で、そのために今何をすべきかを考えたい、と述べた。

原則はユニバーサルデザイン

障碍者だけが使用する機器を作ると、非現実的なほど高額になる。そこで、健常者も使う「ユニバーサルデザイン」としてプロジェクトを進めており、「自律移動支援プロジェクト」も、その考えでやっているという。

たとえば、道路に埋めた電子タグから白杖で位置がわかるシステム、あるいは工事現場のコーンに貼った電子タグで情報を知らせるシステムなどは、障碍者には支援情報を、健常者には観光情報などを提供している。

使えるものは使うが、端末はUC

システムデザインの方針は「使えるものはすべて使う」。位置情報ならば、誤差が大きいGPSだけでなく、場所に応じて電子タグも使う。

ただし、実験で使う携帯端末はUC(ユビキタス・コミュニケータ)。携帯電話だと、新しい機能を入れるために携帯電話会社の許可が必要だからだ。日本は、このような構造的問題が多々あるという。

“ユビキタス基本法”立法を

「ユビキタス社会で重要なことは3つある」として坂村教授があげたのは「要素技術」「法制度」「社会的コンセンサス」。

アメリカにはペナルティ付きの法律があるが、日本にはガイドラインしかないので、たとえばテレビの字幕スーパーのような技術があっても、なかなか広がらない。日本は法律で明示的に決まっていないことには否定的だ。

そこで坂村教授が提案するのが「ユビキタス基本法」。日本は要素技術は得意だが、制度設計は非常に苦手。細かな法律が多くて公共の利益が守られていない。実世界にタグを付けるにしても、国土交通省だけでなく、警察も自治体も民間もかかわるので、「総合的な法を整備する必要がある」とした。

完璧でなくベストエフォートで

20年間やってきて感じることは、完璧を目指さず、少しでも良くして社会に広めていこうという”ベストエフォート”の姿勢だという。

技術的に何が必要なのかは、だいたいわかってきた。その技術を社会に広めるには、どういうシナリオを描けばいいか。これには政治が大事で、インフラの確立は公が行わなければならない。

最後に「ユビキタス社会の実現のためには、政治によって法や制度を整備すべき段階になっている」として講演を終えた。


パネルセッション

  • コーディネータ
    坂村 健
  • パネリスト
    高橋 総一(国土交通省 政策統括官付 参事官)
    岩下 恭士(毎日新聞社 デジタルメディア局ユニバーサロン編集長)
    越塚 登(東京大学大学院 情報学環 教授)
    (敬称略)

基盤整備は国の政策

続くパネルディスカッションでは、まず高橋氏から、自律移動支援プロジェクトの成果と今後の政策が紹介された。

同プロジェクトによって、十分使用できるシステムが構築可能であると確認できた。サービスに必要なデータを統一的に蓄積して共通化するルールは、国が作る必要があると考え、技術仕様をまとめた。オープンで拡張性があることを基本として、細かな規制にならないようにしたという。

インテリジェント基準点の整備

高橋氏は、同プロジェクトを引き継ぐ政策として、「モビリティサポート」に取り組んでいる。災害時の避難案内や公共交通の運行整備などを、共通基盤を用いて提供する。中核事業として、モデル事業を全国7ヶ所の都市で水平展開している。

これから「バリアフリー法」が重要になり、場所コードがその共通基盤となる。国土地理院と共同で「インテリジェント基準点」として全国2万ヶ所にICタグを設置し、位置情報のベースを整備している。

高橋氏は「このような基盤を整備することは国の役目」とした。

視覚障碍者にとってのユニバーサルデザイン

続いて岩下氏が、自らの経験談を披露した。

点字は、健常者から見ればバリアであって、ユニバーサルデザインではない。今はコンピュータが活字情報を読み上げるから、障碍者同士でも、健常者と同等のコミュニケーションができるようになったという。

精度の低いGPSデータ

岩下氏はGPS付き携帯電話を使ってナビゲーション実験を行ったが、精度が悪いという。「店の入口の前」というくらい細かな情報が欲しいが、今のGPSでは難しい。

それに対して銀座のユビキタス実証実験ではピンポイントで情報がわかり、さらに良かったのは、歩行中にさまざまな情報が流れて楽しめたこと。「視覚障碍者に環境情報は不要ということはない」という。

法による強制力

学生時代からTEPSにかかわってきた越塚教授は、技術があっても「みんながやらないとダメだ」と感じているという。

たとえば、ミッドタウンの場合は最初から場所マーカを設置できたが、銀座はすでに完成している場所にマーカを設置することが非常に難しかった。

少子高齢化が進むので、マーカを早急に設置する必要がある。それには法整備による強制力が必要である、とした。

誰がコンセンサスを作るのか

続くディスカッションでも、法律と社会的なコンセンサス作りについて口々に意見が述べられた。

「どこかの誰かが取りまとめて先に進める大きな動きが必要。誰が権限を持つかが問題」(坂村教授)。「バリアフリー法は、“そこまでやらなくても”を“やって当然”というコンセンサスに変えるプロセスを踏んできた」(高橋氏)。「アメリカでは、政府に納めるデバイスはアクセシビリティが良くないとダメだと法律で決まっている」(岩下氏)。「アメリカでは皮肉にも戦争が社会的コンセンサスを高めた。戦場から障碍を持って帰国した若者を保護するためにコンセンサスが高まった」(坂村教授)など。

高橋氏が「TRONSHOWのような機会は非常に有効」と述べると、坂村教授は「東京でやると強く情報発信できると実感している。強力に議論して前に進めなければ、と戦う気持ちで今までやってきた」と心の内を明かす。

最後は高橋氏が「標準化についてまだ改良の余地がある。その中で、2回目のエンジンに点火して頑張っていきたい」と意欲を示し、セッションを終了した。

 

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