TRONイネーブルウェアシンポジウム2O11

TEPS2O11 バリアフリー2.0

2010年12月18日(土)13:30〜16:30(13:00受付開始)
東京ミッドタウン カンファレンス(Midtown Tower 4F/Room 7)

  • 主 催
    T-Engineフォーラム/TRONイネーブルウェア研究会
  • 共 催
    東京大学大学院情報学環 ユビキタス情報社会基盤研究センター
  • 特別協賛
    矢崎総業株式会社
    株式会社アプリックス/NEC/株式会社サトー/大日本印刷株式会社/凸版印刷株式会社/パーソナルメディア株式会社/株式会社パスコ/株式会社日立製作所/富士通株式会社/三井不動産株式会社/ユーシーテクノロジ株式会社/株式会社横須賀テレコムリサーチパーク
13:00受付開始
13:30〜14:30基調講演「バリアフリー 2.0」
坂村 健
TRONイネーブルウェア研究会 会長
東京大学大学院情報学環 教授YRPユビキタス・ネットワーキング研究所 所長
14:30〜14:50休憩
14:50〜16:30パネルディスカッション 

パネリスト
鈴木 研司
国土交通省 政策統括官付参事官付 政策企画官
立松 英子
東京福祉大学・大学院 社会福祉学部 教授
越塚 登
東京大学大学院 情報学環 教授

コーディネータ
坂村 健
16:30閉会

基調講演

バリアフリー 2.0

坂村健
TRONイネーブルウェア研究会 会長
東京大学大学院情報学環 教授
YRPユビキタス・ネットワーキング研究所 所長

障碍を持つ人でも自分の力で円滑に移動することをサポートする”自律移動支援”。TRONプロジェクトでは、何年にもわたり技術開発を進め実証実験を繰り返し、その実現に取り組んできました。

しかし、システムを継続的に運用し発展させていくには、行政だけでは十分に行き届かないところもあり、利用者も含めた多くの担い手の努力をネットワークにより連携し全体を支える――”Government 2.0″的なアプローチが欠かせません。

それにはまず、行政側がさまざまな情報を積極的に公開し、民間がその情報を利用したさまざまなアプリケーションやシステムの開発を行えるように――そういう動きを促進する制度整備や標準化の基盤整備が必要になります。

たとえば施設情報や工事情報などが公開されていれば、それを使いバリアフリー情報を集約し、最新情報に基づく自律移動を支援するシステムの構築が可能になります。

さらに、ソーシャルネットワーク、位置情報取得技術、携帯端末の発展により、地域住民が身の回りで気付いたバリアフリー情報をリアルタイムに手軽に発信し、それをすぐに移動支援システムにフィードバックすることも可能です。

今年のTEPS2011では、”バリアフリー 2.0″をテーマに掲げ、行政だけでなく、システム開発者、地域住民、利用者など多くの担い手によって、自律移動支援システムを発展させ、運用していくための基盤づくりの提言を行っていきます。

パネリスト

鈴木 研司
国土交通省 政策統括官付参事官付 政策企画官

1986年東京工業大学大学院修士課程修了・建設省入省。関東、近畿、四国地方の国土交通行政に携わるとともに、技術研究や国際協力なども経験。2009年7月より現職。少子高齢化社会に向けて、ICT等を活用し、高齢者や障がい者をはじめ、誰もが必要に応じ、移動に関する情報を入手し、積極的に活動できる環境の構築を目的とした、歩行者の移動支援施策を推進中。

「障がい」を自分のこととして考えられるか

立松 英子
東京福祉大学・大学院 社会福祉学部 教授

世界の「障がい」についての考え方は、2001年のICF(国際生活機能分類)の発表以来大きく変わった。「障がい」は個人に帰属するだけでなく周囲との相互作用で起こるものであり、環境によりその制約をなくすことが可能という理念に基づき、「主体性の尊重」、「自立と社会参加」をキーワードに、医療も教育も福祉も「バリアフリー」に向かって動いている。

2009年度の厚生労働白書によれば、我が国の「障害者手帳をもつ人」の数は約724万人、総人口約1億2千万人の5.6%である。一方、義務教育段階を対象とした調査では、特別支援学校及び学級に在籍している児童生徒数は197,468人で、義務教育段階の全人口10,738,655人の約1.8%、しかし、これに文部科学省の2002年度全国調査による「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒」の割合6.3%を足すと、推定8.1%となる。通常の学級の人数を40人として3人を超えるこの数を、少ないと思う人はいないだろう。今、特別支援学校の現場は急激な数の増加に苦しんでいる。高齢者の増加と併せて、支援が必要な人が増え、支える人の割合は減りつつある。その中で、支える人、支えられる人のバリアを技術によってなくしていくことは、理念というより喫緊の課題に思える。

「障がいのある人」のニーズは多様である。障害種は、視覚障害、聴覚障害、肢体不自由、知的障害、自閉症スペクトラム、精神障害、心疾患・腎疾患・呼吸器疾患など。それらを重複してもつ人もいると同時に、それぞれに状態の重い人軽い人がいて、置かれた環境によっても不便さが異なる。つまり、支援は一律でなく自分に合った方法を選べるのがよい。

この中で最も制約の多い生活を強いられているのは、ニーズを伝える術をもたない人だろう。言語的思考が困難な重度の知的障害者、行動の制御が困難な自閉症者・精神障害者の内面は、家族にも専門家にも伝わりにくい。ここでは、「支える人」を支える技術も重要となる。この人々の心の砦は家庭であるにもかかわらず、その家族も本人同様制約の多い暮らしをしているからである。技術は本人だけでなく、「支える人」のバリアフリーをも可能にする。

弱者に役立つ支援は一般の人にも役立つ支援であることを、坂村教授はTRONイネーブルウェア研究会発足当時の1987年から主張していた。「障がい」は見た目や周囲がどう考えるかでなく、本人が「障がい」と感じるかどうかであるということは、「五体不満足」の著者乙武洋匡氏が身をもって示してくれた。世界有数の高齢化社会である日本の国民は、将来は必ず「病気」や「障がい」とともに生きることになることにすでに気づいているはずである。そのとき幸せに生きることができるかどうかは、人々が今、「障がい」を自分自身のこととして考えることができるかどうかにかかっている。

行政と民間の情報共有による福祉サービスの実現

越塚 登
東京大学大学院情報学環 教授
YRPユビキタス・ネットワーキング研究所 副所長

近い将来、社会の高齢化が更に進み、身体にいろいろな部分が不自由になる人の数は、大幅に増えていくだろう。これまで取り組んできた自律移動支援プロジェクトは、そうした状況で、できる限り独力で自律的に移動できるような国土インフラをユビキタス技術を活用して構築しようとするものであった。

自律移動を行う上で、身体の状況に応じて、通れる道と通れない道とが、きちんと情報化されていることが重要である。一般的にこのような情報をバリアフリーマップという。多くの自治体や民間団体でも、バリアフリーマップを構築している。ところが、現状では、そのデータ形式や基準が異なることから、移動支援システムに活用することが難しい。そこで現在、政府は、できるだけ統一した形で、バリアフリーマップを電子的に整備しようとしている。

これは一つの例で、実は、行政情報や民間情報でも、きちんと形式を整えて電子的に公開すると、いろいろな場面で役立つことがある。現在、政府や公共団体の財政が厳しいなか、政府や公共団体だけでなく、個人や民間団体が福祉的なサービスを提供することの重要性が増している。それを実現する鍵の一つは、様々な情報を広く共有することにあると考えられる。TEPS2011では、こうした情報共有が、バリアフリーやユニバーサルデザインの取り組みにどう役立つか考えたい。

TRONイネーブルウェアとTEPS

TRONプロジェクト(プロジェクトリーダー:坂村健)が実現している「どこでもコンピュータ」には、すべての人がコンピュータを使えることが重要です。年齢や身体のさまざまな障害を問わず、あらゆる人を含めて考えなければなりません。TRONプロジェクトで設計しているコンピュータシステムは、真にすべての人が使えるものとするための「TRONイネーブルウェア仕様」を定め、高齢者や障害者への対応をその基本設計の段階から考慮しています。TRONイネーブルウェア仕様は、1987年から、障害者の方々にも参加をいただいて、「TRONイネーブルウェア研究会」の場で検討された成果です。

「TRONイネーブルウェア研究会」(会長:坂村健)は1987年に組織されました。イネーブルウェア仕様の策定・実装のみにとどまらず、イネーブルウェアの理念の普及活動、障害者とコンピュータのためのシンポジウムTEPSの開催などの活動を通して、障害者の生活向上・社会参加をサポートするための活動を行っています。

TEPSは、「TRON Electronic Prosthetics Symposium」の略です。「TRONイネーブルウェアシンポジウム」を短く「TEPS(テップス)」とよぶこともあります。TRON電子補綴技術(TRON Electronic Prosthetics: TEP) は、「イネーブルウェア」と同じ意味を持つ言葉です。「補綴(ほてい/ほてつ)術:Prosthetics」という言葉は、従来、人工臓器や義手・義足などの開発研究を行う医学の一分野を指した言葉です。近代の技術革新、特にコンピュータ技術の発達は、このような従来の補綴具の領域を越える新しい補綴機器の開発を可能としています。そこで、TRONではこの新しい概念を表すために、「補綴:Prosthetics」という従来の言葉をそのまま使用し、「TRON電子補綴技術」とよんでいます。

しかし「補綴:Prosthetics」という言葉は、正確であっても多くの人にとってなじみの薄い専門用語です。そこで、「イネーブルウェア:Enableware」という新語も作り、これを広く使用しています。障害者や高齢者など、何かが「出来なくなっている人びと:Disabled Persons」にとって、その何かを「可能にする:Enable」ためのハードウェア群・ソフトウェア群を指します。

これまでのTEPSのあゆみ

TEPS’88 1988年 7月  
TEPS’90 1990年 3月  
TEPS’92 1992年12月 電脳都市とイネーブルウェア
TEPS’93 1993年12月 イネーブルウェアとどこでもコンピュータの世界
TEPS’94 1994年12月 障碍者を助けるコンピュータネットワーク
TEPS’95 1995年12月 テクノロジーは障碍者に何を可能にしてくれるか?
TEPS’96 1996年12月 大学キャンパスにおける障碍者サポート
TEPS’97 1997年12月 バリアを越えて楽しむエンターテイメント
TEPS’99 1999年 3月 電子商取引時代のイネーブルウェア
TEPS2000 1999年12月 情報機器のためのイネーブルウェアデザイン
TEPS2001 2000年12月 バリアフリーに活かす次世代携帯電話
TEPS2002 2001年12月 どこでもコンピュータ時代のイネーブルウェア
TEPS2003 2002年12月 ユビキタス・コンピューティングとイネーブルウェア
TEPS2004 2003年12月 ユビキタス・コンピューティングとイネーブルウェア(Part2)
~私たちは今、何ができるのか~
TEPS2005 2004年12月 だれでもできるためのユビキタス
TEPS2006 2005年12月 ユビキタス社会基盤のユニバーサルデザイン
TEPS2007 2006年12月 公共交通のユニバーサルデザイン
TEPS2008 2007年12月 場所情報システムのユニバーサルデザイン
~自律移動支援に求められるサービス・実験結果の検証~
TEPS2009 2008年12月 ユビキタス・コンピューティングにおけるユニバーサルデザイン
TEPS2010 2009年12月 ユビキタス社会におけるユニバーサルデザイン
TEPS2011 2010年12月 バリアフリー 2.0