TRONプロジェクト (プロジェクトリーダー:坂村 健) は、「人と物、物と物」をつなぐため、オープンテクノロジーに基づいたユビキタスコンピューティングの基盤技術の研究開発を行っています。ユビキタス社会では、年齢や身体のさまざまな障碍を問わずあらゆる人がコンピュータの恩恵にあずかれることが重要です。TRONプロジェクトで設計している情報基盤技術では、すべての人が使えるものとするための「TRONイネーブルウェア仕様」を定め、高齢者や障碍者への対応をその基本設計の段階から考慮してきました。

「TRONイネーブルウェア研究会」(会長:坂村 健)は1987年に組織されました。コンピュータ技術を使って障碍者を助けることをテーマとした 「TEPS: TRONイネーブルウェアシンポジウム」を毎年開催し、TRONイネーブルウェアの理念の普及、障碍者とコンピュータ技術との関わりの議論、制度設計に対する提言などを行っています。

TRON電子補綴技術(TRON Electronic Prosthetics: TEP) は、「イネーブルウェア」と同じ意味を持つ言葉です。「補綴(ほてい/ほてつ)術:Prosthetics」という言葉は、従来、人工臓器や義手・義足などの開発研究を行う医学の一分野を指した言葉です。しかし、近代の技術革新、特にコンピューター技術の発達は、このような従来の補綴具の領域を越える新しい補綴機器の開発を可能としています。そこで、TRONではこの新しい概念を表すために、「補綴:Prosthetics」という従来の言葉をそのまま使用し、「TRON電子補綴技術」とよんでいます。

しかし「補綴:Prosthetics」という言葉は、正確であっても多くの人にとってなじみの薄い専門用語です。そこで、「イネーブルウェア:Enableware」という新語も作り、これを広く使用しています。障碍者や高齢者など、何かが「出来なくなっている人びと:Disabled Persons」にとって、その何かを「可能にする:Enable」ためのハードウェア群・ソフ トウェア群を指します。